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野間口 桂介 Keisuke NOMAGUCHI
1976 年生まれ 鹿児島県在住
彩り豊かな刺繍が隙間なく施された Y シャツ。幾重もの膨大な縫目により縮んだ布の表面は立体的に波打ち、生き物のように変形している。1 つの作品に 2 年から 5 年もの歳月をかけて、一針一針丹念に紡がれた針目からは、作り手のこうしなければならないというある種の強迫概念から生まれる強いエネルギーが伝わるようである。
野間口は、1999 年にしょうぶ学園の「布の工房」から生まれた「nui project」のメンバーに加わり、刺繍の創作をはじめる。最初は布の中央に丸や三角模様を施していたが、次第に布全体を縫目で覆い尽くすことにこだわりを持つようになった。オーガンジーやメッシュなどの布に、綿糸や毛糸で刺していくのだが、野間口は他のメンバーが捨てるような切れ端の残糸を拾い集め、それを好んで使用する。色の配列にも強いこだわりがあり、選んだ糸を波縫いしては留める行為を幾度となく繰り返し、野間口ならではの奥深い色合いと質感が生み出される。
創作は施設の工房で 1 日 6 時間程度、平日の作業時間に行っている。5 年ほど前から Y シャツへの刺繍は行っておらず、最近は 20 ㎝程度の大きさの布に創作しているという。布や縫う素材が変わっても刺繍のスタイルは変化することなく、布の全体が針目で埋め尽くされた時点で作品は完成となり、その瞬間に作品への執着はなくなるのだそうだ。
撮影/高石 巧、西村 浩一