齋藤 勝利 SAITO Katsutoshi
1954年生まれ 山形県在住
生まれつきのろう者である齋藤は、山形県置賜地方にあるコロニーで生活している。ろう学校に入学した頃は文字の認識ができずにいたというが、当時、齋藤の担任だった美術教師は、絵に描いて伝える意思疎通を試みた。この方法は会話術として功を奏しただけでなく、齋藤は正確な遠近法や複雑な混色を習得した。
スケッチブックをめくっていくと、山の稜線や道路に平行する電線が頁をまたいで続いており、彼独自の壮大な風景の連続画が成立している。
学生の頃の遠足で、バスの景色がよく見える席は齋藤の特等席だった。その車窓から流れる景色を観察し、記憶を基に後で作品を完成させた。高度な描写力に加え、驚異的な観察力と記憶力により、生き生きと紙面に描き表すことができたのだ。
視力の著しい低下が原因し、現在は絵を描いていない。しかし美術教師と再会し、かつて自ら描いた絵に触れた齋藤は、その景色を覚えていることを身振り手振りで告げた。山形の親しみ深い自然の風景が、今でも彼の中で巡っているのかもしれない。齋藤が描いた3,000枚を超える絵は、最上町の教育委員会によって大切に保管されている。