アール・ブリュット

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戸來貴規 Takanori HERAI
1980年生まれ 岩手県在住

 不思議な幾何学模様が描かれたB5判の紙が、高さ約30㎝に積み上げられて、事務用の紐で無造作にとじられている。中央部あたりに、強引に紐通しの穴が開けられた1,000枚にもおよぶ紙の束である。描かれているものについて施設の職員は「実はこれは文字です。彼の日記なのです」と言う。
 よく見ると「日記」には、日付けと気温の部分の数字が毎日違っているだけで、他は全部同じことが書いてあった。
「きょうはラジオたいそうをやりました……(中略)……みそしる うめぼし クーピー のり 牛乳」そして裏面には「3月15日水曜日 天気晴れ気温16℃ へらいたかのり」。日にちの数字に1を加えた数を温度の数字にするという独自の規則もある。
 作品が発見されたのは、彼が現在暮らす施設の職員によってであった。入所当初の彼は、理解困難な状況だったという。そこに、彼の描く連続模様の美しさに心惹かれた2人の女性職員が丹念に歩み寄り、薄皮を?ぐようにして表現の謎を1枚ずつめくりはじめたのだった。孤独な営みが少しずつ交信の回路を得たのである。
 作品はアール・ブリュット・コレクション(スイス)での「JAPON」展(2008-2009年)に出展され、同館に収蔵されている。

(執筆者/はたよしこ 「日本のアール・ブリュットKOMOREBI展」(2017-2018)カタログより)

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